どこに行ってもデジタル。大企業は、DXだAIだとアルファベット言葉ばかり(他にもSDGsにESGに…)。中小企業はGビズID を使いjGrantsから補助金申請するだけでぐったり。国は「先端デジタル技術で事業の再構築を」と言うけれど、キャッシュレス決済やポイントシステムだけでもたくさんあり過ぎて諦めたり。
そんな折に、「あなたにも、デジタルマーケティングを!」と言われても、正直なところ前のめりに近づいてくれないのは理解できます。でも、こう聞かれたらいかがでしょう。
「あなたの会社は、データを貯めていますか」
今日お客様は何人来たか、1週間でどの商品が何個売れたか、仕入れにいくらかかったか—全部記録されていますよね。企業でも個人事業主でも、ご商売をしていてデータがまったくないと言うことはないでしょう。あなたの会社は間違いなくデータを貯めています。
実は、この「データを貯めていること」が、デジタルマーケティングのスタート地点なんです。そうやって言ってくれた人、今まで周囲にいたでしょうか。
データをどう集め、貯め、分け、読み、使うか。その過程をより楽にやる為に、あなたや従業員でなく、デジタルに働いてもらいます。これがデジタルマーケティングです。つまり、面倒くさいと遠ざけてきたあなたも、カタカナ語が苦手なあなたも、デジタルマーケティングの入り口には立てています。
一方で、ただ漫然とデータを貯めれば自然に身につく、と言うものではありません。「何のために」「どうやって」データを収集するか、そして読み解き方や使い方でも目的意識が定まっているのが大前提になります。
そこで、なるべく咀嚼して一例を挙げてみます。
アンケートはがきに例えてみました
最近は減りましたが、アンケートはがきがテーブルに置かれている飲食店を、見かけたことがあろうかと思います。「何のために」は、より良いサービス提供のためで、お客様の声を拾う一手段です。お客様は、記入したアンケートはがきを店内回収箱または郵便でお店に送ります。
この後の、「どうやって」データを貯めるかを、お店側で考えられる対応タイプ別に図解にしてみましょう。
まずAタイプ。届いたはがきを、はがきのまま保管します。時々パラパラとめくりながら眺めるか、そのまま放置されたままです。それではダメなことはわかりますし、そうするお店も稀でしょう。
Bタイプは、届いたアンケートをメールや文書作成ソフトで従業員に情報共有するケースです。「店内をもっと●●してほしい(40代女性)」みたく自由記述型のアンケートだと、こうしたやり方も多いのではないでしょうか。一見、これでいい気もしますが、はがき1枚が1つのファイルに置き換わっただけで、束ねて見ることができません。
そこで、表計算ソフトにリスト化しておくのがCタイプです。決められた枠に所定の項目を入力することで、1つのファイルで束ねて見ることができます。また、年代や時期などに分類することも容易です。これが「データを貯める」ことに繋がります。
でも、この方法でも「貯め方」は▲にしました。なぜか。
背景色がグレー部分は、お店側で行う作業を意味しますが、B、Cタイプとも「誰かが入力する」手間が入ります。お客様がはがきに書き、従業員がパソコンに書く。昔からこのようにしていれば、それが当たり前と思うかもしれませんが、時間がかかりますよね。それが億劫になり、未入力のはがきをため込む場合もあるでしょう。それがずっと放置されたのでは、お店が声を聞いてくれると思ってひと手間かけて書いたお客様のご厚意もほったらかしに。
だから、Dタイプのように、お客様がスマホから回答できるようにするのです。QRコードを読み取って打ち込まれた回答が、送信ボタンを押すと自動的に表計算形式のファイルに蓄積されたら、入力に人や時間をかけることなく、すぐに分析に取り掛かれます。※1
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これが、デジタルマーケティングの考え方であり、入り口です。わかりやすくアンケートはがきに例えましたが、これを自社のホームページやネット通販、SNSなどにおいても「お客様の動きを自動で収集した」データを貯めていきます。何が問題か、その解決にどんな課題を立てるか、その達成には何が有効か、実践してみた結果はどうだったか…と繰り返していきます。ホームページをもっと多くの人に見てほしい場合は「どのような検索をした人を確保したいか」、ネットからの申し込みを増やしたければ「認識してもらった人の興味や好感を高めるにはどうするか」と言ったことを、日々蓄積されるアクセス履歴などから推察し、手段を絞り込んでいく、といった具合にです。
まとめ〜面倒なことは、パソコンにでもやらせましょう
ホームページやインターネットのデータは、膨大すぎて頭に入らない、と思われる人もいるでしょう。でも、極論をいえば、すべてのデータは表計算ソフトに束ねたアンケート結果のように、定型の表に蓄積されます。Excelで必要な機能だけをいくつか覚えれば、データ量に関係なく分析にかける作業量は一緒。面倒なことはパソコンにでもやらせて、あなたは人間様にしかできないことに集中できるのです。
それでも、データは英語や中国語のように、ひとつの言語とも言えます。より流暢に話すには無駄のないシンプルなデータ分析を、より表現豊かに相手に訴え、伝わるようにするには語彙力を要します。あるデータアナリストはこう言いました。
「データ分析はサイエンス、データ活用はアート」※2
分析は科学的に行う一方、データをどう生かしていくかは、通り一遍では手数が限られます。時に意外な組み合わせや、他者が考えつかないやり方をしたい場合、あなたの側にいるべき人は、デジタルやデータ「しか知らない」人でなく、多様な経験や知見がある人でしょう。
「データを貯める」ことができるなら、意識しなくてもデジタルマーケティングになっていきます。そうなるまでの過程に、データを経営目線で話せる伴走者、しかも個性的なのがたくさんいると心強いですね。
(倉内佳郎)
<参考>
※1 note「デニーズに入ったらお客様アンケートが最高だった話」菅原大介|リサーチャー
※2 note「データ分析はサイエンス、データ活用はアート」齋藤周